分光された光のエネルギー変動
分光された光のエネルギーが意図したエネルギーと違ってしまうのは、
何らかの理由で分光器に対する光の入射、出射の角度が変わった時だと考えられる。
(他には、分光結晶の面間隔、回折格子の格子間隔の変化も考えられる。
Si の線膨張係数を $4.15 \times 10^{-6}$ [$K^{-1}$] とすると、
20℃の温度変化があったとき $1+1\times10^{-4}$ 程度の変化になり、
以下で議論する 0.1[eV]相当の変化を生む)
1. 角度変動とエネルギー変動の関係
分光器に入射する光の角度が変わると、反射される(され得る)光のエネルギーが変わる。 その度合いは、分光器の角度 / 分光された光のエネルギーによって変わる。
Si(111) 分光結晶 ( 面間隔 $d = 3.1355316$ [Å] とする ) を考えると、1eV の変化に対応する角度の変化は次の表のようになる。
分光光のエネルギー ( $E$ [eV] ) | 角度 ( $\theta$ [deg] ) | $\Delta E = 1$ [eV] に相当する角度変化 $\Delta \theta$ [mdeg] | 同$\Delta\theta$ [$\mu$rad] | $\Delta\theta = 1$ [$\mu$rad] に相当する$\Delta E$ [eV] |
---|---|---|---|---|
5,000 | 23.29198 | 4.93 | 86.1 | 0.0116 |
7,000 | 16.40352 | 2.41 | 42.1 | 0.0238 |
9,000 | 12.68858 | 1.43 | 25.0 | 0.0400 |
11,000 | 10.35337 | 0.952 | 16.6 | 0.0603 |
13,000 | 8.747007 | 0.678 | 11.8 | 0.0847 |
15,000 | 7.573439 | 0.508 | 8.86 | 0.113 |
17,000 | 6.678167 | 0.395 | 6.89 | 0.145 |
19,000 | 5.972529 | 0.315 | 5.51 | 0.181 |
21,000 | 5.401963 | 0.258 | 4.50 | 0.222 |
23,000 | 4.931028 | 0.215 | 3.75 | 0.267 |
25,000 | 4.535699 | 0.182 | 3.17 | 0.315 |
ひと目見てわかるのはエネルギー依存性が大きいことで、 5keV 付近と 25keV 付近では、実に 30 倍近く角度変化に対する変動量が違う (高エネルギーほど敏感)。 またいずれにしても数$\mu$rad 程度の角度変化で 1eV 程度の影響があることがわかる。
2. 光源・光学系の変動
あいちSRの硬X線XAFS測定ビームライン BL5S1 および BL11S2 では、 光源や光学系で様々な変動があり得る。 ここでは、想定できる変動の内のいくつかについて、その大きさの度合いと エネルギー変動にどの程度寄与するかを検討してみる。
2.1 光源の変動
BL5S1、BL11S2 の光源点の位置は長い時間スケール(数分程度以上)で見た時変動している。 光源になる偏向電磁石前後のBPM(beam position mater)で見た時、 10〜100 [$\mu$m] 程度の変化がある。 その変化が前後で同量なら、ビームラインに届く光が平行移動することになるが 変化量が違えば、その差分はビームラインに届く光の傾きを生む。 偏向電磁石前のBPMでみた光の位置を $P_b$、後ろのBPMでみた光の位置を $P_a$ とすると、 光の平行移動量は \[ \frac{\Delta P_b + \Delta P_a}{2} \] となる。 角度変化については、BPM間の距離を$L$としたとき、 \[ \frac{\Delta P_b - \Delta P_a}{2L} \] となる(単位は rad)。
光源から出射される光の角度変動によるエネルギー変動
$ L = 2 $[m] 程度と考えると、光源の位置変動による角度変動は 10〜100 [$\mu$m] / 2 [m] = 5〜50 [$μ$rad] ということになる。 これを先の表と照らし合わせると 1eV のエネルギー変動に相当する。
光源から出射される光の平行移動によるエネルギー変動
3. 余談
3.1 光のエネルギーと波長の関係
光の波長 $\lambda$ [Å] と、エネルギー $E$ [eV] は、 \[ A = \frac{2\pi\hbar c}{e} = 12.39842436 \times 1000 \]
という定数を介して $E = A / \lambda$ まはた $\lambda = A / E$ という関係にある。
$E$、$\lambda$ の単位が変わった場合の $A$ の値は次の通り。
$E$ の単位 | $\lambda$ の単位 | $A$ の値 |
---|---|---|
eV | Å | $12.39842436 \times 1000$ |
keV | Å | $12.39842436$ |
eV | nm | $1.239842436 \times 1000$ |
eV | $\mu$m | $1.239842436$ |