資料1 : 国際会議 XAFS2018 でMLCF法の開発を報告した発表のポスター
プログラム : MLCF法でデータ解析を行うプログラム
実際的な注意点 : MLCF法 / q4ps 使用に当たっての Tips 的なこと
XANES領域のXAFSスペクトルを解析する際、よく使われる方法の一つに
LCF(linear combination fitting)法がある。
LCF法では、試料中の対象元素の状態は複数の化学状態の混合であると仮定する。
LCF法での解析においては、想定される化学状態にある標準試料のスペクトル(標準スペクトル)を準備し、
対象試料のスペクトルを最も良く再現する標準スペクトルの混合比を求め、
これが対象試料中の各化学状態の混合比であると考える。
一方で、XAFS測定の発展的な利用法として、試料表面や断面内の2次元の状態分析を
行いたいという要望は常にある。この時、2次元の各点で通常のXAFSスペクトル測定を行うと
測定全体にかかる時間は非常に長くなり、現実的でなくなることが往々にしてある。
例えば、100 x 100のグリッド上の各点で 測定時間 1分の Quick XAFS 測定を行うと
少なくとも 10,000分(160時間以上)の時間がかかる。
MLCF(modified linear combination fitting)法は、高々数点のエネルギーでだけ測定された
X線吸光度(非常に疎なXAFSスペクトル)を解析してLCF法と同様に化学状態の混合比を与える方法である。
MLCF法ではエネルギー方向には高々数点の測定を行えば良いので、2次元の測定を劇的に短縮できる可能性がある。
先の例の測定を行う時、ある一つのエネルギーに固定して
面内の吸光度分布を測定し、次のエネルギー点に移るということを繰り返すなら、10秒/ライン x 100ライン x 5エネルギー点 = 5,000秒(1時間半程度)の測定になり得る。
MLCFと通常のLCFのもっとも大きな違いは、LCFでは解析に使うリファレンスとなるスペクトル、解析対象のスペクトル共に予めエッジジャンプが1で、ベースラインがフラットになるように規格化されているのに対して、MLCFでは解析対象のスペクトルは規格化されていないものを扱うことである。このため、MLCF ではエネルギー方向の測定点数が少なく事前には規格化ができないようなデータも扱うことができる。
手法 | 標準スペクトル | 解析対象スペクトル | |
---|---|---|---|
LCF | 規格化 | 規格化 | 解析対象スペクトルは規格化できる だけの情報(点数)が必要 |
MLCF | 規格化 | 非規格化 | 解析対象スペクトルを規格化しないので 少ない点数の測定でも解析できる可能性がある |
MLCFでは、測定対象スペクトルをあらかじめ規格化しないが、規格化しないままで標準スペクトルとの比較を行うわけではなく、 規格化の為に必要な情報を得ることも解析のプロセスの一部に取り込んでいる。
(規格化された)標準試料のスペクトルを$S_i(E)$ ($i=1, 2, 3, \dots$: 標準試料の指標)とし、 規格化された対象試料のスペクトルを$\overline{\mu t}(E_k)$ ($k=1, 2, 3, \dots$: 測定したエネルギー点の指標)とする ($\mu t$は本来は $\mu \times t$だが、ここではひとかたまりにした$\mu t$と言う名の関数の様に扱う)。 対象試料中の対象元素の状態は、標準試料中の対象元素の状態のどれかになっているものと考えられる場合 LCF 解析が可能になる。 状態$i$の存在割合を$\alpha_i$として、標準的な最小二乗法を使うことにすると \[ R = | \Sigma_k \{ \overline{\mu t}(E_k) - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} |^2 \]
を最小にする$\alpha_i$を見つける問題に落ち着き、これは簡単に解くことができる。
上記の LCF の解析では、対象試料のスペクトルが事前に規格化されていることを前提にした。 規格化の手続きは \[ \overline{\mu t} = \frac{\mu t - \mu t_0}{\Delta\mu t} \] ($\mu t_0$は振動やジャンプのないベースライン)と書けるが、 $\mu t_0$ を $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E$ や $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E^{-3} + C_2 E^{-4}$ の様にパラメータを用いて近似するなら、そのパラメータも最小二乗の対象にして$\alpha_i$と同時に決定することができる。 これが MLCF の考え方である。 $\mu t_0$ として $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E$を採用した場合を具体的に書いてみる。
\[ R = | \Sigma_k \{ \overline{\mu t}(E_k) - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} |^2 \] の $\overline{\mu t}$ を \[ \overline{\mu t}(E) = \frac{\mu t(E)-\mu t_0(E)}{\Delta\mu t} = \frac{\mu t(E)-C_0-C_1 E}{\Delta\mu t} \] と置き換えると、 \[ R = | \Sigma_k \{ \frac{\mu t(E)-C_0-C_1 E}{\Delta\mu t} - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} |^2 \] と書ける。$R \Delta\mu t = R'$ と書くことにすると、 \[ R' = | \Sigma_k \{ \mu t(E)-C_0-C_1 E - \Sigma_i \alpha_i \Delta\mu t S_i(E_k) \} |^2 \] $\Delta\mu t > 0$なので、 $R'$を最小にすることと$R$を最小にすることは等価である。 さらに、表記を簡単にするために $\alpha_i \Delta\mu t = \alpha_i'$と書くことにすると、
\begin{eqnarray} R' & = & | \Sigma_k \{ \mu t(E)-C_0-C_1 E - \Sigma_i \alpha_i' S_i(E_k) \} |^2 \\ & = & | \Sigma_k \{ \mu t(E)-C_0-C_1 E - \alpha_1' S_1(E_k) - \alpha_2' S_2(E_k) - \alpha_3' S_3(E_k) \cdots\} |^2 \end{eqnarray} の様に、線形の最小二乗問題となり LCF の場合と同様すぐに解くことができる。
その結果としては、ベースラインを表現するパラメータ $C_0$、$C_1$と、$\alpha_i'$が求まる。 ここで、LCF の場合と同様に「対象試料中の対象元素の状態は、標準試料中の対象元素の状態のどれかになっているもの」と考えているので(そうでなければLCF/MLCFでは解析できない) $\Sigma_i \alpha_i = 1$ だということを使うと、 \[ \Sigma_i \alpha_i' = \Sigma_i \alpha_i \Delta\mu t = \Delta\mu t \Sigma_i \alpha_i = \Delta\mu t \] である。すなわち、ここで求まった $\alpha_i'$ の合計は $\Delta\mu t$になっている。
最後に、 こうして求まった $\Delta\mu t$ を使えば、$\alpha_i$ は $\alpha_i = \alpha_i' / \Delta \mu t$としてすぐに得られる。
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