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結晶工学スクールテキスト 16版 の松井先生のテキスト冒頭部の読み下し(の試み)
1. はじめに
この文章では、応用物理学会結晶工学分科会が毎年開催している結晶工学スクールの 2022年度、2023年度のテキスト(結晶工学スクールテキスト16版)に 掲載された松井純爾先生のテキスト「歪のあるエピタキシャル層に対するXRCシミュレーション 〜高木-Taupin理論〜」の先頭 3ページほどに展開される式を追い、 2波近似の基本式が現れるあたりまでをしっかりと理解することを目標に、筆者なりの式の整理と注釈を行なったものである。
松井先生の表記と違う表記をとると混乱する可能性もあるが、 できるだけ慣れた表記で式を追わないと間違える可能性が高くなることを避けるためあえて一部表記を変える。 そのことも含めて、ここでの記述のルールを最初にまとめる。
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時間方向の振動数 ν の代わりに、角振動数 ω を使う(表記に出てくるπの数を減らすため)。
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波数(空間方向の振動数)の定義として k=1/λ ではなく、k=2π/λ を使う(これも表記に出てくる π の数を減らすため)。
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電磁単位系として MKSA を採用する。 原文は CGS eus もしくはその派生が使われている様に見えるが、単にこれに不慣れなことと、現在参照できる参考資料の多くが MKSA なので不要な混乱を避けるため。
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逆格子ベクトルを表す記号として原文は h を使っているが、ここでは g を使う。これも慣れている方が間違いにくいというだけ。
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式番号は原文のママとする。順序を変える必要があっても、並び順に振り直すようなことはしない。
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ただし、第一章より深追いするつもりはないので 1-○○ の 1- は省略する。
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原文で複数行の式に一つの式番号が振られているようなケースで、より細かく各行に式番号が欲しいときには枝番をつける。
例えば、原文で (1-10) だった式を2つに分けてそれぞれ番号を振る場合 10-1, 10-2 とする(“1-“は省略)。 -
原文に無い式を追加するときは、A1, A2,… 等表記する。(式の文字と紛らわしければ再考するかも)
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ベクトル微分演算の記号としては、div, rot, grad 等の表記と ∇ をあえて混在させる。
松井先生の原文は前者を使用しており、意味合いがクリアになるというメリットもあるが、式展開の途中では煩雑になるため。 -
ここで書いた式と原文の式が対応はしているが完全には一致していないとき式番号に”'“を付けた(例えば(2')の様に)。
一致していない理由はその前後に青字で書いた(理由というより単なる推測のときもあるが) -
不一致の理由が、表記の違いや流儀の違い等どちらでもあり得るというという場合ではなく、単純な勘違いだったとしても、 何らかの間違い/勘違いが含まれていると判断した場合には式を赤字で示した。
2. 「1-1. 動力学の基本方程式」より
2.1 導入・基本
最初の 4つの式はマクセル方程式そのもの。
∇×E=−μ0∂H∂t ∇×H=∂D∂t
原文では(2)の右辺にμ0がかかっている。おそらく単純な勘違い。
∇⋅D=0 ∇⋅H=0
裸の電荷無しと仮定して(3)の右辺は 0、ただし分極は存在すると考えるので ϵ≠ϵ0(式(2)を∇×H=ϵ∂E/∂tとは書かない)。
Dや、H は時間方向には位相はともかくとして、入射光のEと同じ振動(角周波数ω)をしていると考える。顕に書くと D(t,r)=exp(iωt+ϕ)D(r) H(t,r)=exp(iωt+ϕ′)H(r) 従って、時間微分は係数 iω をかける操作に置き換えられる。 ∂D∂t=∂D(t,r)∂t=iωtexp(iωt+ϕ)D(r)=iωD(t,r)=iωD ∂H∂t=∂H(t,r)∂t=iωtexp(iωt+ϕ′)H(r)=iωH(t,r)=iωH もちろん、本家の E も同じく ∂E∂t=iωE
原文では右辺に負号がついているが、この負号があると時間変化の因子を exp(−iωt) と考えていることになり、 後に進行波を表記する際 expi(ωt−k⋅r) と書くことと整合しないのでココでは負号を外した 1)。
2.2 分極・感受率
真空でない媒質中に、電場Eがあると一般には分極Pが誘起される。 EによってPがどれだけ誘起されるかの係数(一般にはテンソル)を感受率 χ として P=ϵ0χE と書け、 電束Dは ϵ0E と分極Pの合計で D=ϵ0E+P=ϵ0(E+χE)=ϵ0(1+χ)E=ϵE と書ける(従って ϵ=ϵ0(1+χ))。 原文では式(6)に ϵ0 がかかっていない。これはおそらく CGS eus 系を採用しているからだと思われる。 原文で ϵ=1+χ となっているのも同じ理由と推測する。
2.3 式変形開始
式(1) と (2) をメインとし、(3)、(4) を補助的に使いながら電磁波の波動方程式を出すための常套手段を踏む。
方針としては、一旦 D と H だけの式にした後、式(1)は両辺rotをとり、式(2)は両辺∂/∂tかける。
その結果両式に現れるrot∂H/∂t を消去することでDだけの(Pは残るが)波動方程式にすることを目指す。
式(6)より、 ϵ0E=D−P
式(1) 全体に ϵ0 をかけて 左辺に式(A4) を代入。
∇×ϵ0E=−ϵ0μ0∂H∂t∇×(D−P)=−ϵ0μ0∂H∂t
さらに両辺の rot をとる
∇×∇×(D−P)=−ϵ0μ0∇×∂H∂t∇×∇×D−rotrotP=−ϵ0μ0∇×∂H∂t
次に式(2)を時間微分する(時間微分と空間微分の順序入れ替えも行う)
∇×∂H∂t=∂2D∂t2
(2-1)を(1-2)に代入すると
∇×∇×D−rotrotP=−ϵ0μ0∂2D∂t2
ここで、ベクトル解析の一般公式
∇×∇×A=∇∇⋅A−∇2A
を使って
∇×∇×D=∇∇⋅D−∇2D
とできる。(3) より ∇⋅D=0 なので、改めて式(15)は、
∇×∇×D=−∇2D
と書ける。次に、Δ≡∇2 と記号を置き換えつつ、A6 を A5 に使って変形すると
−ΔD−rotrotP=−ϵ0μ0∂2D∂t2⇒ΔD=ϵ0μ0∂2D∂t2−rotrotP
となる(この式(9')で、「真空なのでP=0」としたものが、ごく普通の真空中の電磁波の波動方程式)。
式(9')は原文の(9)と比べて右辺第一項が違う。
式(2)から ∂D/∂t=∇×H=rotH を使って、式(9') の D の2回時間微分を一つ戻すと、
ΔD=ϵ0μ0∂rotH∂t−rotrotP
と書けるので、おそらくここの H と D を取り違えられたものと思われる。また、原文で後に出てくる波動方程式は式(9')と一致している。
2.4 rotrotP をどうにかする
2.4.1 rotrotP をどうにかする下準備 1 : P を D で書く
rotrotP をどうにかする下準備として、P を D で書く。 「分極・感受率」に書いたように P=ϵ0χE で、D=ϵE、さらに ϵ=ϵ0(1+χ) なので、 P=ϵ0χE=ϵ0χDϵ=ϵ0χϵ0(1+χ)D≃χD となる。最後の近似は、χ≪1 と考えて 1+χ≃1 としている。 この様に、PがDで書けたので、rotrotP の代わりに rotrotχD を考える。
2.4.2 rotrotP をどうにかする下準備 2 : D と χ を級数展開する
次に、χをフーリエ展開する。χは物質に付随する量で結晶と同じ周期性を持つはずなので、
結晶の逆格子ベクトルgで展開できると考えれば、その展開係数を χgとして、
χ=∑gχgexp(−ig⋅r)
と書ける。
式(11')は原文の(11)と比べるとπの有無が違う。
これは逆格子ベクトルgの定義が a∗=(b×c)/a⋅(b×c)の様になっていて、πが入っていないからだと思われる
(松井先生の波数の定義がk=1/λなのに対して、ここでの波数の定義が k=2π/λなのと同じ違い)。
これは流儀の違いで一貫していれば問題にならない。
ここで負号が何故出てくるのか(あっても良いが普通はない。両者はχgが変わる(χ′g=χ−gのように入れ替わる))疑問だが、後半の式展開で納得できる。
続いて D は一次波(波数k0)と、”存在し得る”二次波(反射波)を全て足したものだと考える。 この時、反射波の波数をk と書くことにすると、存在が許されるのは k−k0=gが満たされる場合だけだというのを思い出し (回折条件なので当然と思ってこの様に解釈したが、動力学の話をしようとしている時に、前提としてこの関係を使って良いのかどうか、恥ずかしながら分からなかった)、 この関係を満たすkをkgと書くことにする(すなわち kg−k0=g あるいは kg=g+k0)。 g0をg0≡(0,0,0)と定義すると、k0=k0+g0≡kg0 も含めて全ての波を kg=g+k0 使って書けるので、
D=∑gDgexp{i(ωt−kg⋅r)}=exp(iωt)∑gDgexp(−kg⋅r)=exp(iωt)∑gDgexp{−i(g+k0)⋅r}=exp{i(ωt−k0⋅r)}∑gDgexp(−ig⋅r)
ただし、総和を取る gの集合にg0も含まれる。ここで、Dgは各成分の大きさを表す定数のベクトル。
私の頭だとどうしても式(A7)従って式(12の2行目)が先にでてきてしまうが、式(12の1行目)が先にでてくる松井先生の感覚は
「(基本波も含めて)全ての波は、基本波が g で散乱されたもの」というのが芯から納得できている見通しの良さを感じられる。見習いたい。
また、後に明らかになるが、この展開は「許されるkgを与えるgだけを使った展開」と考えるのではなく、「全てのgを使った展開(普通のフーリエ級数展開)」と考えたほうが筋が良さそう。
その場合も、許されないkgに対応する係数Dgを0にするだけ。
2.4.3 rotrotP をどうにかする下準備 3 : χD を2つの級数の積で書く
ここまでで、χ と D のそれぞれを級数展開した形が得られた。 そこで両者から χDを計算してみる。
χ=∑gχgexp(−ig⋅r) D=exp(iωt)∑gDgexp(−ikg⋅r)
両式の g は独立なので、Dの式の方の gをg′と書き直して χDを計算する。 その際、χの展開はフーリエ展開なので全てのgに関して総和が取れていれば良く、 事前に任意に指定した逆格子ベクトルg′分だけずらして足し上げを実行しても問題ないことに留意する。 すなわち、 χ=∑gχg−g′exp{−i(g−g′)⋅r} でも良い。
χの表式として式(11'-2)を採用すると、
χD=[∑gχg−g′exp{−i(g−g′)⋅r}]{exp(iωt)∑g′Dg′exp(−ikg′⋅r)}=exp(iωt)∑g′∑gχg−g′Dg′exp{−i(g−g′)⋅r}exp(−ikg′⋅r)=exp(iωt)∑g′∑gχg−g′Dg′exp{−i(g−g′+kg′)⋅r}
ここでkg=g+k0、kg′=g′+k0⇒k0=kg′−g′ だということを思い出すと、
式(A9-3)の指数関数の肩は g−g′+kg′=g+k0=kg と書き換えられる。結果、
χD=exp(iωt)∑g′∑gχg−g′Dg′exp(−ikg⋅r)
となる。
χの定義をg′だけずらす考え方すごい !!
また、χの展開のとき exp(−ikg⋅r) の様にマイナスで展開していなければここで指数の肩がkgにまとまることは無かった。そこまで考慮されていることに驚き。
原文では χD を書き下しておらず、式(A9)に相当するものは直接書かれていない。
2.4.4 rotrotPの評価開始 : まずは rotP=rotχD
A=ϕA0とするとき、ベクトル解析の公式によると ∇×A=∇×(ϕA0)=∇ϕ×A0+ϕ∇×A0 である。特に A0がrの関数でない場合には、第二項が消えて ∇×(A)=∇ϕ×A0 となる。 ϕ=exp(−ik⋅r)の場合には∇ϕ=−ikexp(−ik⋅r) であることを使って、 rotA=rot{exp(−ik⋅r)A0}=−ikexp(−ik⋅r)×A0=−ik×{exp(−ik⋅r)A0}=−ik×A となる。
exp(iωt)やχg−g′ は r の関数ではないのでrotは
Dg′exp(−ikg⋅r)の部分にだけかかることを考慮しながら、
式(16)の結果を 式(A9-2) の χD に使うと、
rotχD=exp(iωt)∑g,g′χg−g′rot{Dg′exp(−ikg⋅r)}=exp(iωt)∑g,g′χg−g′(−ikg)×{Dg′exp(−ikg⋅r)}
となる。
式(A11)と原文式(17)が対応するはずだが、少し違っている。
全体にかかる因子がexpになっていないのはまず間違いなく単純ミスだが、肝心の kgの外積がない。
さらに原文ではシグマの中のexpの肩のkgがhになっている。
原文式(18)では、kgになっているので、この点はおそらく、松井先生の筆が滑ったものと思われる。
原文の式(18)は(A11)から導かれるものになるので(A11)が正しいと判断する。
2.4.5 ついに rotrotP=rotrotχD
式(A11)に再びrotを作用させる。
その結果は先と同様で
rotrotχD=exp(iωt)∑g,g′χg−g′(−ikg)×rot{Dg′exp(−ikg⋅r)}=exp(iωt)∑g,g′χg−g′(−ikg)×{(−ikg)×Dg′exp(−ikg⋅r)}=−exp(iωt)∑g,g′χg−g′{kg×(kg×Dg′)}exp(−ikg⋅r)}
となる。
ベクトル3重積の公式により式(18)に含まれている3重積は
kg× (kg×Dg′)=(kg⋅Dg′)kg−kg2Dg′
となる。
kg方向の単位ベクトルをikgとすると、
右辺第一項は
|kg|2|Dg′|cosθikg
なので、Dg′のkg方向の成分(|Dg′|cosθikg)をkg2倍したもの(θはkgとDg′が成す角)。
第二項は
Dg′をkg2倍したものなので、その差である式(19)は、Dg′のkgに垂直な方向の成分をkg2倍したもの、但し符号は負になる。やや強引に書くなら
kg× (kg×Dg′)=(kg⋅Dg′)kg−kg2Dg′=kg2{(ikg⋅Dg′)ikg−Dg′}=kg2(Dg′∥g−Dg′)
従って、
kg× (kg×Dg′)=−kg2Dg′⊥g
但し、Dg′⊥gはDg′のkgに垂直な成分(Dg′∥gは平行な成分)。原文ではどのベクトルに垂直なのかを示すためにDg′(g)の様に表記している。
原文では三重積の展開形を睨んでDg′に垂直な成分と看破しているが、なぜそう見えるのはまだわからない(方向がそうだということだけは、元の三重積の形でわかるが、大きさまで直感的に理解するのは難しい)。
また、ここで負号がつく(元のDg′とは逆向きに垂直)のも大事で、ここで負号が出てこないと最後の式がおかしくなる。
これを式(18)に代入すると、 rotrotχD=exp(iωt)∑g,g′χg−g′kg2Dg′⊥gexp(−ikg⋅r)
2.5 電磁波の波動方程式に大集合
ここまでの結果を式(9') ΔD=ϵ0μ0∂2D∂t2−rotrotP に代入してまとめていく。
まず、式(9')の右辺第一項は、真空の光速はc=1/√ϵ0μ0=λνで Dは時間微分するとiωがでる(式(5'-1))ことから ϵ0μ0∂2D∂t2=−1c2ω2D=−4π2ν2λ2ν2D=−4π2λ2D=−K2D と書ける。 但し Kは真空中での電磁波の波数の絶対値(=2π/λ)。 この時点で式(9')は ΔD+K2D+rotrotP=0 となる。
次にΔDを計算する。 D=exp(iωt)∑gDgexp(−ikg⋅r) なので ΔD=exp(iωt)∑gDgΔexp(−ikg⋅r)=exp(iωt)∑gDg{−(kg2x+kg2y+kg2z)}exp(−ikg⋅r)=−exp(iωt)∑gDgkg2exp(−ikg⋅r) となる。
式(20)に式(A14)と式(12-2)および式(A12)を代入すると
−exp(iωt)∑gDgkg2exp(−ikg⋅r)+K2exp(iωt)∑gDgexp(−ikg⋅r)+exp(iωt)∑g,g′χg−g′kg2Dg′⊥gexp(−ikg⋅r)=0
exp(iωt)の因子を落として、全体をgのシグマにまとめると
−∑gDgkg2exp(−ikg⋅r)+K2∑gDgexp(−ikg⋅r)+∑g∑g′χg−g′kg2Dg′⊥gexp(−ikg⋅r)=0
∑g[−Dgkg2exp(−ikg⋅r)+K2Dgexp(−ikg⋅r)+exp(−ikg⋅r)kg2∑g′χg−g′Dg′⊥g]=0
∑gexp(−ikg⋅r)[−Dgkg2+K2Dg+kg2∑g′χg−g′Dg′⊥g]=0
これが、任意のrで成立するためには[]内が0でなければならない。
すなわち、
−Dgkg2+K2Dg+kg2∑g′χg−g′Dg′⊥g=0
並べ直して整理すると
−Dgkg2+K2Dg=−kg2∑g′χg−g′Dg′⊥gkg2−K2kg2Dg=∑g′χg−g′Dg′⊥g
原文式(21)では、右辺はDg′⊥gではなくDg′に戻っている。この点、左辺のDgはkgに垂直(物質内でも保証できるか ?)ことを考慮して、
右辺も自動的にkgに垂直な成分だけが残る、とか、なにか理屈付けられそうな気がするが今の時点ではわからない。
原文では、ここで右辺の式について「ここで∑g′はg′=gを含む全てのg′について和を取る。」と言及している。
これは、この式の起源がχのフーリエ級数展開にあってg0も含めて全ての空間周波数成分を含むことを改めて確認した文章である。
また、この式がある意味 Dg のフーリエ級数展開と読めることも説明されていて、非常に趣深い。
本文で D を級数展開した式(12)を導いた時の、
私の気持ちは、Dgは、全ての gに関して存在するわけではなく、
kg=g+k0 を満たす(結果の kg が |kg|=|k0|を満たす)ケースだけピックアップして展開した、という気持ちだったが
これを満たさないケースの DgはDg=0 だと考えれば、式(12)を単純に D のフーリエ級数展開と呼んで良かったかもしれない。
2.5.1 屈折率
χ0 はその定義(χのフーリエ展開の0次成分)から、媒質中の平均の感受率。従ってこれで媒質の屈折率が決まる。
屈折率は媒質中での光速(c′)と真空中での光速(c)の比だから
n=cc′=√1/ϵ0μ0√1/ϵμ=√ϵμϵ0μ0
ここでは μ≃μ0 と考えており、ϵ=ϵ0(1+χ0) なので、
n=√ϵ0(1+χ0)μ0ϵ0μ0=√1+χ0
原文はこの逆数になっているが、おそらく間違いでは ?
χ0が十分小さいと考えてこれをテーラー展開すると、
n=√1+χ0=1+12χ0
(そもそも違う式からの導出だが)原文では、1−|χ0|/2 となっていて、第二項に負号がつくことと χ0 の絶対値をとっている点が異なる。
本文筆者の知識として、物質中の光速(位相速度)はX線の領域では真空中の光速を越えている(n<1)ことを知っているので、
そのことからすると、ここでの χ0 は負のはず(n=1+χ0/2<1となるので)。
松井先生の式はχ0の絶対値をとって引いているので(n=1−|χ0|/2)これは確実に 1 より小さい。
1より小さくするために(?)絶対値を取らないといけないことから間接的に、原文でも(当然ではあるが) χ0は負だと考えていることがわかる。
2.6 2波近似
2.6.1 スカラー化
原文では「波動振幅は大きさのみを扱うからスカラー量として…」と簡単に書かれているが、この「スカラー量」に直す操作も難しい。 この過程でDg′⊥gがDg′に戻りそうな気がするが…
どうするのが正解かわからないが、Dg方向の単位ベクトルigをかける方針でやってみる。
式(22')
kg2−K2kg2Dg=∑g′χg−g′Dg′⊥g
の両辺にigをかける
kg2−K2kg2Dg⋅ig=∑g′χg−g′Dg′⊥g⋅igkg2−K2kg2Dg=∑g′χg−g′Dg′⊥g⋅ig
igは必ずkgに垂直なので、Dg′⊥gはigと平行(符号がわからない!! 逆向きの可能性は ??)なので
kg2−K2kg2Dg=∑g′χg−g′Dg′⊥g
右辺のシグマから g′=gの項を取り出すと
kg2−K2kg2Dg=χ0Dg+∑g′≠gχg−g′Dg′⊥g
と書ける。
残念ながらDg′にはならずDg′⊥gになった。
2.6.2 Kからkへ
式(24)、(25)を導出するのは断念。途中経過はまるごと注釈に移した2)。
2.6.3 Kからkへは諦めて : 2波近似本番
原文の式(24)、(25)の導出は一旦諦めるが、原文式(26)には(22')から直接いける。
式(22') kg2−K2kg2Dg=∑g′χg−g′Dg′⊥g からスタートする。 この式で g=0 とし シグマからはg′=0,g を選ぶと(他は無いものとすると)式(26)が、 また g=g とし シグマからはおなじくg′=0,g を選ぶと(他は無いものとすると)式(27)が得られるのだが、 この操作では、一般のgと一つ選んだ特定のgに同じ記号が使われていたりして、場合によっては一瞬混乱の元になる。 ここでは、なるべく紛れなく理解して納得することを目的としているので、一段階余分に途中段階を踏む。
式(22')に残す2つの波としてg1とg2を選ぶものとする。
シグマに現れる g′にはこの両方を使って(この2つだけを使って)足し上げを行うが、g としては、
このどちらか一つを選ぶことになる。結果g=g1とした式とg=g2とした式ができる。
まず式(22')の右辺を先に展開する。 k2g−K2k2gDg=χg−g1D⊥gg1+χg−g2D⊥gg2 これの g に g1、もしくは g2 を代入するとそれぞれ k2g1−K2k2g1Dg1=χg1−g1D⊥g1g1+χg1−g2D⊥g1g2k2g2−K2k2g2Dg2=χg2−g1D⊥g2g1+χg2−g2D⊥g2g2 が得られる。
次に g1=0、g2=g とすると、式(A16)、式(A17)はそれぞれ、 k20−K2k20D0=χ0−0D⊥00+χ0−gD⊥0g=χ0D⊥00+χ−gD⊥0gk2g−K2k2gDg=χg−0D⊥g0+χg−gD⊥gg=χgD⊥g0+χ0D⊥gg となる。
さらに式(A16-2)に現れる D⊥0g の方向は(k0に垂直な成分なので?)D0と同じと考えてよければ
D⊥00は元々D0と同じはずなので、
式(A16-2)に出てくるDは全てスカラ(大きさ)にできる。
式(A17-2)でも、D0⊥g の方向は(kgに垂直な成分なので?)Dg と同じと考えて良ければ、
D⊥ggは元々Dgと同じはずなので、
式(A17-2)に出てくるDは全てスカラ(大きさ)にできる。
などと考えると、式(A16-2)、式(A17-2) はそれぞれ、
k20−K2k20D0=χ0D0+χ−gD⊥0gk2g−K2k2gDg=χgD⊥g0+χ0Dg
となる。
これらの式を見てると、D と D⊥ の違いを吸収しているのが偏光因子Cにも見えるが ? いずれにしても、差異をCに押し込むことにすれば k20−K2k20D0=χ0D0+Cχ−gDg kg2−K2kg2Dg=CχgD0+χ0Dg 式番号のダッシュが消える!
3. 終了
実は、本文を書き始めたのは式(26)を導出するため(納得して正しさを確認するため)であった。 結果、最大限違っていたとしてもDとD⊥の違いがあるかもしれないが、それを除けば式(26)を導出できた。
一旦はこれで満足するが、今回の読み下しはかなり勉強になったので後日この先も進めてみたい。