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tabuchi:mlcf法の紹介

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tabuchi:mlcf法の紹介 [2020/04/09 08:39] mtabtabuchi:mlcf法の紹介 [2023/11/24 03:17] (現在) – [1.2 MLCF での解析] mtab
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 資料1 : {{:tabuchi:prog:mlcf-xafs2018-poster.pdf|国際会議 XAFS2018 でMLCF法の開発を報告した発表のポスター}} \\  資料1 : {{:tabuchi:prog:mlcf-xafs2018-poster.pdf|国際会議 XAFS2018 でMLCF法の開発を報告した発表のポスター}} \\ 
-プログラム : [[:tabuchi:q4ps|MLCF法でデータ解析を行うプログラム]]+プログラム : [[:tabuchi:q4ps|MLCF法でデータ解析を行うプログラム]] \\  
 +実際的な注意点 : [[tabuchi:q4ps-tips|MLCF法 / q4ps 使用に当たっての Tips 的なこと]]
  
  XANES領域のXAFSスペクトルを解析する際、よく使われる方法の一つに  XANES領域のXAFSスペクトルを解析する際、よく使われる方法の一つに
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 面内の吸光度分布を測定し、次のエネルギー点に移るということを繰り返すなら、10秒/ライン x 100ライン x 5エネルギー点 = 5,000秒(1時間半程度)の測定になり得る。 面内の吸光度分布を測定し、次のエネルギー点に移るということを繰り返すなら、10秒/ライン x 100ライン x 5エネルギー点 = 5,000秒(1時間半程度)の測定になり得る。
  
 +===== - MLCF法の概要 =====
  
- 資料 1. は、MLCFの基礎となる理論と実施例を2018年にポーランドで開催された XAFS国際会議(XAFS2018)にて報告した際のポスターである。理論に関しては、上記のポスターでも不足なく述べられているが、それほど詳細な記述にはなっていない。近々この場所でも少し丁寧な紹介を試みる予定である。 
- 
-==== MLCF法の概要 ==== 
  MLCFと通常のLCFのもっとも大きな違いは、LCFでは解析に使うリファレンスとなるスペクトル、解析対象のスペクトル共に予めエッジジャンプが1で、ベースラインがフラットになるように規格化されているのに対して、MLCFでは解析対象のスペクトルは規格化されていないものを扱うことである。このため、MLCF ではエネルギー方向の測定点数が少なく事前には規格化ができないようなデータも扱うことができる。  MLCFと通常のLCFのもっとも大きな違いは、LCFでは解析に使うリファレンスとなるスペクトル、解析対象のスペクトル共に予めエッジジャンプが1で、ベースラインがフラットになるように規格化されているのに対して、MLCFでは解析対象のスペクトルは規格化されていないものを扱うことである。このため、MLCF ではエネルギー方向の測定点数が少なく事前には規格化ができないようなデータも扱うことができる。
- +<WRAP center 90%> 
-^  手法  ^  標準スペクトル  ^  解析対象スペクトル  ^ ^ +^  手法    ^  標準スペクトル  ^  解析対象スペクトル                                             
-|  LCF  |  規格化  |  規格化  | 解析対象スペクトルは規格化できるだけの情報(点数)が必要 | +|  LCF   |  規格化      |  規格化        | 解析対象スペクトルは規格化できる\\ だけの情報(点数)が必要             
-|  MLCF  |  規格化  |  非規格化  | 解析対象スペクトルを規格化しないので少ない点数の測定でも解析できる可能性がある |+|  MLCF  |  規格化      |  非規格化       | 解析対象スペクトルを規格化しないので\\ 少ない点数の測定でも解析できる可能性がある  | 
 +</WRAP>
  
 MLCFでは、測定対象スペクトルをあらかじめ規格化しないが、規格化しないままで標準スペクトルとの比較を行うわけではなく、 MLCFでは、測定対象スペクトルをあらかじめ規格化しないが、規格化しないままで標準スペクトルとの比較を行うわけではなく、
 規格化の為に必要な情報を得ることも解析のプロセスの一部に取り込んでいる。 規格化の為に必要な情報を得ることも解析のプロセスの一部に取り込んでいる。
  
-=== LCFでの解析 ===+==== - LCFでの解析 ===
 (規格化された)標準試料のスペクトルを$S_i(E)$ ($i=1, 2, 3, \dots$: 標準試料の指標)とし、 (規格化された)標準試料のスペクトルを$S_i(E)$ ($i=1, 2, 3, \dots$: 標準試料の指標)とし、
 規格化された対象試料のスペクトルを$\overline{\mu t}(E_k)$ ($k=1, 2, 3, \dots$: 測定したエネルギー点の指標)とする 規格化された対象試料のスペクトルを$\overline{\mu t}(E_k)$ ($k=1, 2, 3, \dots$: 測定したエネルギー点の指標)とする
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 対象試料中の対象元素の状態は、標準試料中の対象元素の状態のどれかになっているものと考えられる場合 LCF 解析が可能になる。 対象試料中の対象元素の状態は、標準試料中の対象元素の状態のどれかになっているものと考えられる場合 LCF 解析が可能になる。
 状態$i$の存在割合を$\alpha_i$として、標準的な最小二乗法を使うことにすると 状態$i$の存在割合を$\alpha_i$として、標準的な最小二乗法を使うことにすると
- +\[ 
-R = \Sigma_k \{ \overline{\mu t}(E_k) - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} ]^2  +R = \Sigma_k \{ \overline{\mu t}(E_k) - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} |^2 
 +\]  
  
 を最小にする$\alpha_i$を見つける問題に落ち着き、これは簡単に解くことができる。 を最小にする$\alpha_i$を見つける問題に落ち着き、これは簡単に解くことができる。
  
-=== MLCF での解析 ===+==== - MLCF での解析 ====
 上記の LCF の解析では、対象試料のスペクトルが事前に規格化されていることを前提にした。 上記の LCF の解析では、対象試料のスペクトルが事前に規格化されていることを前提にした。
- +規格化の手続きは 
-規格化の手続きは $\overline{\mu t} = \frac{\mu t - \mu t_0}{\Delta\mu t}($\mu t_0$は振動やジャンプのないベースライン)と書けるが、+\[ 
 +   \overline{\mu t} = \frac{\mu t - \mu t_0}{\Delta\mu t} 
 +\] 
 +($\mu t_0$は振動やジャンプのないベースライン)と書けるが、
 $\mu t_0$ を $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E$ や $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E^{-3} + C_2 E^{-4}$ の様にパラメータを用いて近似するなら、そのパラメータも最小二乗の対象にして$\alpha_i$と同時に決定することができる。 $\mu t_0$ を $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E$ や $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E^{-3} + C_2 E^{-4}$ の様にパラメータを用いて近似するなら、そのパラメータも最小二乗の対象にして$\alpha_i$と同時に決定することができる。
 これが MLCF の考え方である。 これが MLCF の考え方である。
 +$\mu t_0$ として $\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E$を採用した場合を具体的に書いてみる。
  
-$\mu t_0(E) = C_0 + C_1 E$を採用した場合を具体的に書いてみる。 +\[ 
- +   R = \Sigma_k \{ \overline{\mu t}(E_k) - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} |^2 
-R = \Sigma_k \{ \overline{\mu t}(E_k) - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} ]^2 $   +\]  
 の $\overline{\mu t}$ を  の $\overline{\mu t}$ を 
-$\overline{\mu t}(E) = \frac{\mu t(E)-\mu t_0(E)}{\Delta\mu t} = \frac{\mu t(E)-C_0-C_1 E}{\Delta\mu t}$+\[ 
 +    \overline{\mu t}(E) = \frac{\mu t(E)-\mu t_0(E)}{\Delta\mu t} = \frac{\mu t(E)-C_0-C_1 E}{\Delta\mu t} 
 +\]
 と置き換えると、 と置き換えると、
 +\[
 +R = | \Sigma_k \{ \frac{\mu t(E)-C_0-C_1 E}{\Delta\mu t} - \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} |^2
 +\]  
 +と書ける。$R \Delta\mu t = R'$ と書くことにすると、
 +\[
 +R' = | \Sigma_k \{ \mu t(E)-C_0-C_1 E - \Sigma_i \alpha_i \Delta\mu t S_i(E_k) \} |^2
 +\]  
 +$\Delta\mu t > 0$なので、
 +$R'$を最小にすることと$R$を最小にすることは等価である。
 +さらに、表記を簡単にするために $\alpha_i \Delta\mu t = \alpha_i'$と書くことにすると、
  
-R = \Sigma_k \{ \frac{\mu t(E)-C_0-C_1 E}{\Delta\mu t- \Sigma_i \alpha_i S_i(E_k) \} ]^2 $   +\begin{eqnarray} 
 +R' & & | \Sigma_k \{ \mu t(E)-C_0-C_1 E - \Sigma_i \alpha_i' S_i(E_k) \|^2 \
 +   & = & | \Sigma_k \{ \mu t(E)-C_0-C_1 E - \alpha_1' S_1(E_k) - \alpha_2' S_2(E_k) - \alpha_3' S_3(E_k) \cdots\} |^2 
 +\end{eqnarray}  
 +の様に、線形の最小二乗問題となり LCF の場合と同様すぐに解くことができる。
  
 +その結果としては、ベースラインを表現するパラメータ $C_0$、$C_1$と、$\alpha_i'$が求まる。
 +ここで、LCF の場合と同様に「対象試料中の対象元素の状態は、標準試料中の対象元素の状態のどれかになっているもの」と考えているので(そうでなければLCF/MLCFでは解析できない) $\Sigma_i \alpha_i = 1$ だということを使うと、
 +\[
 +\Sigma_i \alpha_i' = \Sigma_i \alpha_i \Delta\mu t = \Delta\mu t \Sigma_i \alpha_i = \Delta\mu t
 +\]
 +である。すなわち、ここで求まった $\alpha_i'$ の合計は $\Delta\mu t$になっている。
  
 +最後に、
 +こうして求まった $\Delta\mu t$ を使えば、$\alpha_i$ は $\alpha_i = \alpha_i' / \Delta \mu t$としてすぐに得られる。
  
  
 +-----
 +当 web ページとその下のページに関するお問い合わせ等ございましたら、[[連絡先|連絡先]]にご連絡をお願いします。 \\
 +[[start|田渕のページのルート]]
  
tabuchi/mlcf法の紹介.1586421540.txt.gz · 最終更新: 2020/04/09 08:39 by mtab