tabuchi:ey-cey
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tabuchi:ey-cey [2024/04/26 08:08] – [3.2 観察深さの測定] mtab | tabuchi:ey-cey [2024/04/26 10:19] (現在) – mtab | ||
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==== - 電子収量/ | ==== - 電子収量/ | ||
- | XAFS測定の一つのモードとして、試料から放出される電子を検出する方法があり、電子収量法と呼ばれます。 | + | XAFS測定の一つのモードとして、試料から放出される電子を検出する方法があり、電子収量法と呼ばれる。 |
- | 軟X線領域での測定の場合には、試料が真空中に置かれることが多く電子の検出も比較的容易でよく利用されます。 | + | 軟X線領域での測定の場合には、試料が真空中に置かれることが多く電子の検出も比較的容易でよく利用される。 |
- | 硬X線領域では試料は通常は大気中に置かれるのでそのままでは電子の検出は難しいですが、 | + | 硬X線領域では試料は通常は大気中に置かれるのでそのままでは電子の検出は難しいが、 |
- | 試料をHe置換できる簡便な容器に入れることで、特に真空排気を行わず電子収量の測定を行う方法があり転換電子収量法と呼ばれます。 | + | 試料をHe置換できる簡便な容器に入れることで、特に真空排気を行わず電子収量の測定を行う方法があり転換電子収量法と呼ばれる。 |
==== - 電子収量法を使う理由/ | ==== - 電子収量法を使う理由/ | ||
- | 電子収量の測定は、「試料がX線を透過しないのでやむなく」利用される場合と、「電子の脱出深さは浅いので表面敏感になることを期待して」利用される場合があります。 | + | 電子収量の測定は、「試料がX線を透過しないのでやむなく」利用される場合と、「電子の脱出深さは浅いので表面敏感になることを期待して」利用される場合がある。 |
- | 前者では、本来は試料の厚さ方向の制限は期待していないのにやむなく電子収量法を用いるので、「どこまで深く観察できるか」が気になります。 | + | 前者では、本来は試料の厚さ方向の制限は期待していないのにやむなく電子収量法を用いるので、「どこまで深く観察できるか」が気になる。 |
- | 後者では、表面敏感を期待しているのであまり深くが見えてしまうのは好ましくありません。 | + | 後者では、表面敏感を期待しているのであまり深くが見えてしまうのは好ましくない。 |
- | いずれにしても、「どこまで見えるのか」をある程度知っておくことが重要です。 | + | いずれにしても、「どこまで見えるのか」をある程度知っておくことが重要である。 |
==== - 具体的な観察深さは? | ==== - 具体的な観察深さは? | ||
- | 一方で、実際に見える深さがどれだけか、明確に述べた文献はなかなか見当たりません。 | + | 一方で、実際に見える深さがどれだけか、具体的な数字で明確に述べた文献はなかなか見当たらない。 |
- | 文献調査すると、具体的な個別のケースとして、ある試料について、これこれの条件では、この程度の深さが見えた、という数字は出てきますが | + | 文献調査すると、具体的な個別のケースとして、ある試料について、これこれの条件では、この程度の深さが見えた、という数字は出てくるが |
- | かなりばらついた数字になります。 | + | かなりばらついた数字になる。 |
- | これは観察深さが試料の膜質に依存するもので、万能の数字がないということによるものなのでしかたがないのですが、 | + | これは観察深さが試料の膜質に依存するもので、万能の数字がないということによるものなのでしかたがないが、 |
- | 考え方や、傾向としてどの程度の深さが観察できるかの目安があれば助かります。 | + | 考え方や、傾向としてどの程度の深さが観察できるかの目安があると助かる。 |
==== - ここで公開する資料の位置づけ ==== | ==== - ここで公開する資料の位置づけ ==== | ||
- | ここに公開している講演資料は、このような気持ちから行った研究結果を発表したときに使用した資料です | + | ここに公開している講演資料は、このような気持ちから行った研究結果を発表したときに使用した資料である |
- | (「討論会資料」がオリジナルの講演資料で、「勉強会資料」はこの結果をベースに考察等を加えて少し話を膨らませた内容になっています)。 | + | (「討論会資料」がオリジナルの講演資料で、「勉強会資料」はこの結果をベースに考察等を加えて少し話を膨らませた内容になっている)。 |
- | ここで重要なのは「電子が通過する膜の厚さを変えた一連の試料を1セットだけ(実際には2セットですが)準備して、 | + | ここで重要なのは「電子が通過する膜の厚さを変えた一連の試料を1セットだけ(実際には2セット)準備して、 |
- | その同じセットで異なる複数の吸収端での観察深さを調べた」結果になっていることです。 | + | その同じセットで異なる複数の吸収端での観察深さを調べた」結果になっていることである。 |
==== - 直接的な実験結果と他の物質に関する予想 ==== | ==== - 直接的な実験結果と他の物質に関する予想 ==== | ||
行 34: | 行 34: | ||
- 研究対象にした ZrO2 膜では 2keV程度〜20nm => 20keV程度〜 200nm | - 研究対象にした ZrO2 膜では 2keV程度〜20nm => 20keV程度〜 200nm | ||
- | ということです。 | + | である。 |
- | しかし、観察深さは上にも述べたように膜の種類や質が変わると変わるはずです。 | + | 実際には、観察深さは上にも述べたように膜の種類や質が変わると変わるはずだが、 |
- | どのように変化すると考えるべきかの指針は「勉強会」資料の後半にあります。 | + | どのように変化すると考えるべきかの指針は「勉強会」資料の後半にある。 |
簡単に述べると、 | 簡単に述べると、 | ||
- ある決まった膜に関して測定するなら「吸収端に依存した変化のしかた(グラフの形)」は、今回の結果とおおよそ同じ形になると考えるのが妥当 | - ある決まった膜に関して測定するなら「吸収端に依存した変化のしかた(グラフの形)」は、今回の結果とおおよそ同じ形になると考えるのが妥当 | ||
行 44: | 行 44: | ||
- 「勉強会資料」p.35 はその時の目安に使用可能\\ | - 「勉強会資料」p.35 はその時の目安に使用可能\\ | ||
| | ||
- | ということになります。 | + | ということになる。 |
- | この様な、予想や指針が本当に正しいか、どの程度正しいかについては、可能ならば今後実験的に検討していきたいと考えています。 | + | この様な、予想や指針が本当に正しいか、どの程度正しいかについては、可能ならば今後実験的に検討していきたいと考えている。 |
===== - 講演資料 ===== | ===== - 講演資料 ===== | ||
- ** {{ : | - ** {{ : | ||
- | 下にある XAFS討論会ネタを少し細くして勉強会で喋ったときの試料です。 | + | 下にある XAFS討論会ネタを少し細くして勉強会で喋ったときの試料。 |
- ** {{ : | - ** {{ : | ||
" | " | ||
田渕雅夫$^{1, | 田渕雅夫$^{1, | ||
$^1$名大SRRC, | $^1$名大SRRC, | ||
- | 第26回XAFS討論会, | + | 第26回XAFS討論会, |
- | 当日沢山の反応を頂けましたので早めに公開します。 | + | |
===== - 観察深さの定義 ===== | ===== - 観察深さの定義 ===== | ||
行 67: | 行 65: | ||
[信号強度{\rm from}深さ x] = C \exp -\frac{x}{\lambda} | [信号強度{\rm from}深さ x] = C \exp -\frac{x}{\lambda} | ||
\] | \] | ||
- | と仮定しています。この $\lambda$がここで言う「観察深さ」です。 | + | と仮定する。この $\lambda$ がここで言う「観察深さ」である。 |
==== - 観察深さの測定 ==== | ==== - 観察深さの測定 ==== | ||
行 78: | 行 76: | ||
\end{eqnarray} | \end{eqnarray} | ||
- | 膜Aに含まれる元素について検出される信号強度は | + | となり、膜Aに含まれる元素について検出される信号強度は |
\begin{eqnarray} | \begin{eqnarray} | ||
行 85: | 行 83: | ||
& = & C \lambda_A \{ 1 - \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \} | & = & C \lambda_A \{ 1 - \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \} | ||
\end{eqnarray} | \end{eqnarray} | ||
+ | |||
+ | となる。 | ||
「討論会資料」では、「表面 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / GaAs基板」、「表面 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / Si基板」構造で$L_A$を変えた試料セットを準備し、 | 「討論会資料」では、「表面 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / GaAs基板」、「表面 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / Si基板」構造で$L_A$を変えた試料セットを準備し、 | ||
行 94: | 行 94: | ||
ここでそもそも知りたかったどの程度「表面敏感」なのか「バルクが見えているか」について考える。 | ここでそもそも知りたかったどの程度「表面敏感」なのか「バルクが見えているか」について考える。 | ||
前節と同じ「表面 / 膜A(厚さ$L_A$) / 膜B(厚さ$\infty$)」という構造で、膜A、膜Bに共通に含まれている元素が測定対象の場合を考えることになる。 | 前節と同じ「表面 / 膜A(厚さ$L_A$) / 膜B(厚さ$\infty$)」という構造で、膜A、膜Bに共通に含まれている元素が測定対象の場合を考えることになる。 | ||
- | 「表面敏感であってほしい」と思っているときには「膜A」からの信号が大事で、「バルクを見たい」と思っているときにはなるべく「膜A」の影響が少ないことが望ましい。 | + | 「表面敏感であってほしい」と思っているときには「膜A」からの信号が大事で、「バルクを見たい」と思っているときには「膜B」の信号が大事でなるべく「膜A」の影響が少ないことが望ましい。 |
- | そこで、[全信号]に占める[膜Aに起因した信号]の強度の割合を考えてみる | + | そこで、[全信号]に占める[膜Bに起因した信号]の強度の割合を考えてみる |
\begin{eqnarray} | \begin{eqnarray} | ||
+ | | ||
+ | & = & C \lambda_A \{ 1 - \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \} + C \lambda_B \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \\ | ||
+ | & = & C \lambda_A - C \lambda_A \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} + C \lambda_B \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \\ | ||
+ | & = & C \lambda_A - C ( \lambda_A - \lambda_B ) \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} | ||
\end{eqnarray} | \end{eqnarray} | ||
+ | \begin{eqnarray} | ||
+ | | ||
+ | & = & \frac{ \lambda_B \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} }{ \lambda_A - (\lambda_A - \lambda_B) \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} } \\ | ||
+ | \end{eqnarray} | ||
+ | |||
+ | === - $\lambda_A \simeq \lambda_B$ の場合 === | ||
+ | |||
+ | 膜Bの表面が変質することが予想されていて、その変質を見たい場合(表面敏感希望)や、その変質を無視したい場合(表面鈍感希望)など、 | ||
+ | $\lambda_A \simeq \lambda_B$ と近似できることが多いと予想される。 | ||
+ | その時には、 | ||
+ | \begin{eqnarray} | ||
+ | [膜Bの割合] & = & \frac{ \lambda_B \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} }{ \lambda_A - (\lambda_A - \lambda_B) \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} } \\ | ||
+ | & = & \frac{\lambda_B}{\lambda_A}\frac{ \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} }{ 1 - (1-\lambda_B/ | ||
+ | & \simeq & \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} | ||
+ | \end{eqnarray} | ||
+ | となる。具体的な数字は次のようになる。 | ||
+ | |||
+ | <WRAP center 90%> | ||
+ | ^ $L_A$ ^ $[Bの割合]$ | ||
+ | | $\sim \lambda_A/ | ||
+ | | $\sim \lambda_A/ | ||
+ | | $\sim \lambda_A/ | ||
+ | | $\sim \lambda_A$ | ||
+ | | $\sim 2\lambda_A$ | ||
+ | | $\sim 4\lambda_A$ | ||
+ | </ | ||
+ | |||
+ | この数字を見ると、「表面敏感」を期待するときには「観察深さの2~4倍」ぐらいは見てしまっていること、 | ||
+ | 「バルクを見ること」を期待するときには変質した表面は厚さが「観察深さの1/ | ||
+ | を知っておく必要がある。 | ||
+ | |||
+ | === - $\lambda_A \neq \lambda_B$ の場合 === | ||
+ | その都度評価をするしかないが、方針としては上記と同様の手続きを踏めばよいので、それほど難しくはない。 | ||
+ | |||
+ | |||
+ | |||
tabuchi/ey-cey.1714118903.txt.gz · 最終更新: 2024/04/26 08:08 by mtab