tabuchi:ey-cey
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====== 電子収量(転換電子収量)法 ====== | ====== 電子収量(転換電子収量)法 ====== | ||
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===== - 電子収量法による観察深さについて ===== | ===== - 電子収量法による観察深さについて ===== | ||
==== - 電子収量/ | ==== - 電子収量/ | ||
- | XAFS測定の一つのモードとして、試料から放出される電子を検出する方法があり、電子収量法と呼ばれます。 | + | XAFS測定の一つのモードとして、試料から放出される電子を検出する方法があり、電子収量法と呼ばれる。 |
- | 軟X線領域での測定の場合には、試料が真空中に置かれることが多く電子の検出も比較的容易でよく利用されます。 | + | 軟X線領域での測定の場合には、試料が真空中に置かれることが多く電子の検出も比較的容易でよく利用される。 |
- | 硬X線領域では試料は通常は大気中に置かれるのでそのままでは電子の検出は難しいですが、 | + | 硬X線領域では試料は通常は大気中に置かれるのでそのままでは電子の検出は難しいが、 |
- | 試料をHe置換できる簡便な容器に入れることで、特に真空排気を行わず電子収量の測定を行う方法があり転換電子収量法と呼ばれます。 | + | 試料をHe置換できる簡便な容器に入れることで、特に真空排気を行わず電子収量の測定を行う方法があり転換電子収量法と呼ばれる。 |
==== - 電子収量法を使う理由/ | ==== - 電子収量法を使う理由/ | ||
- | 電子収量の測定は、「試料がX線を透過しないのでやむなく」利用される場合と、「電子の脱出深さは浅いので表面敏感になることを期待して」利用される場合があります。 | + | 電子収量の測定は、「試料がX線を透過しないのでやむなく」利用される場合と、「電子の脱出深さは浅いので表面敏感になることを期待して」利用される場合がある。 |
- | 前者では、本来は試料の厚さ方向の制限は期待していないのにやむなく電子収量法を用いるので、「どこまで深く観察できるか」が気になります。 | + | 前者では、本来は試料の厚さ方向の制限は期待していないのにやむなく電子収量法を用いるので、「どこまで深く観察できるか」が気になる。 |
- | 後者では、表面敏感を期待しているのであまり深くが見えてしまうのは好ましくありません。 | + | 後者では、表面敏感を期待しているのであまり深くが見えてしまうのは好ましくない。 |
- | いずれにしても、「どこまで見えるのか」をある程度知っておくことが重要です。 | + | いずれにしても、「どこまで見えるのか」をある程度知っておくことが重要である。 |
==== - 具体的な観察深さは? | ==== - 具体的な観察深さは? | ||
- | 一方で、実際に見える深さがどれだけか、明確に述べた文献はなかなか見当たりません。 | + | 一方で、実際に見える深さがどれだけか、具体的な数字で明確に述べた文献はなかなか見当たらない。 |
- | 文献調査すると、具体的な個別のケースとして、ある試料について、これこれの条件では、この程度の深さが見えた、という数字は出てきますが | + | 文献調査すると、具体的な個別のケースとして、ある試料について、これこれの条件では、この程度の深さが見えた、という数字は出てくるが |
- | かなりばらついた数字になります。 | + | かなりばらついた数字になる。 |
- | これは観察深さが試料の膜質に依存するもので、万能の数字がないということによるものなのでしかたがないのですが、 | + | これは観察深さが試料の膜質に依存するもので、万能の数字がないということによるものなのでしかたがないが、 |
- | 考え方や、傾向としてどの程度の深さが観察できるかの目安があれば助かります。 | + | 考え方や、傾向としてどの程度の深さが観察できるかの目安があると助かる。 |
==== - ここで公開する資料の位置づけ ==== | ==== - ここで公開する資料の位置づけ ==== | ||
- | ここに公開している講演資料は、このような気持ちから行った研究結果を発表したときに使用した資料です | + | ここに公開している講演資料は、このような気持ちから行った研究結果を発表したときに使用した資料である |
- | (「討論会資料」がオリジナルの講演資料で、「勉強会資料」はこの結果をベースに考察等を加えて少し話を膨らませた内容になっています)。 | + | (「討論会資料」がオリジナルの講演資料で、「勉強会資料」はこの結果をベースに考察等を加えて少し話を膨らませた内容になっている)。 |
- | ここで重要なのは「電子が通過する膜の厚さを変えた一連の試料を1セットだけ(実際には2セットですが)準備して、 | + | ここで重要なのは「電子が通過する膜の厚さを変えた一連の試料を1セットだけ(実際には2セット)準備して、 |
- | その同じセットで異なる複数の吸収端での観察深さを調べた」結果になっていることです。 | + | その同じセットで異なる複数の吸収端での観察深さを調べた」結果になっていることである。 |
==== - 直接的な実験結果と他の物質に関する予想 ==== | ==== - 直接的な実験結果と他の物質に関する予想 ==== | ||
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- 研究対象にした ZrO2 膜では 2keV程度〜20nm => 20keV程度〜 200nm | - 研究対象にした ZrO2 膜では 2keV程度〜20nm => 20keV程度〜 200nm | ||
- | ということです。 | + | である。 |
- | しかし、観察深さは上にも述べたように膜の種類や質が変わると変わるはずです。 | + | 実際には、観察深さは上にも述べたように膜の種類や質が変わると変わるはずだが、 |
- | どのように変化すると考えるべきかの指針は「勉強会」資料の後半にあります。 | + | どのように変化すると考えるべきかの指針は「勉強会」資料の後半にある。 |
簡単に述べると、 | 簡単に述べると、 | ||
- ある決まった膜に関して測定するなら「吸収端に依存した変化のしかた(グラフの形)」は、今回の結果とおおよそ同じ形になると考えるのが妥当 | - ある決まった膜に関して測定するなら「吸収端に依存した変化のしかた(グラフの形)」は、今回の結果とおおよそ同じ形になると考えるのが妥当 | ||
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- 「勉強会資料」p.35 はその時の目安に使用可能\\ | - 「勉強会資料」p.35 はその時の目安に使用可能\\ | ||
| | ||
- | ということになります。 | + | ということになる。 |
- | この様な、予想や指針が本当に正しいか、どの程度正しいかについては、可能ならば今後実験的に検討していきたいと考えています。 | + | この様な、予想や指針が本当に正しいか、どの程度正しいかについては、可能ならば今後実験的に検討していきたいと考えている。 |
===== - 講演資料 ===== | ===== - 講演資料 ===== | ||
- ** {{ : | - ** {{ : | ||
- | 下にある XAFS討論会ネタを少し細くして勉強会で喋ったときの試料です。 | + | 下にある XAFS討論会ネタを少し細くして勉強会で喋ったときの試料。 |
- ** {{ : | - ** {{ : | ||
" | " | ||
田渕雅夫$^{1, | 田渕雅夫$^{1, | ||
$^1$名大SRRC, | $^1$名大SRRC, | ||
- | 第26回XAFS討論会, | + | 第26回XAFS討論会, |
- | 当日沢山の反応を頂けましたので早めに公開します。 | + | |
===== - 観察深さの定義 ===== | ===== - 観察深さの定義 ===== | ||
==== - 定義 ==== | ==== - 定義 ==== | ||
- | ここでは、ある深さでX線が吸収された時、その吸収の程度を「電子収量」として検出すると、その値は吸収が起こった深さに応じて指数関数的に減少する、すなわち | + | ここでは、ある深さで$x$の位置でX線が吸収された時(電子が発生した時)、その吸収の程度を「電子収量」の信号$s(x)$として検出すると、その値は吸収が起こった深さに応じて指数関数的に減少する、すなわち |
\[ | \[ | ||
- | | + | |
\] | \] | ||
- | と仮定しています。この $\lambda$がここで言う「観察深さ」です。 | + | と仮定する。この $\lambda$ がここで言う「観察深さ」である。 |
+ | 先に上げた講演資料でも同じ定義を採用している。 | ||
==== - 観察深さの測定 ==== | ==== - 観察深さの測定 ==== | ||
- | 対象試料が「表面 / 膜A(厚さ$L_A$) / 膜B(厚さ$\infty$)」という構造の時、膜Bに含まれる元素について検出される信号強度は、 | + | 対象試料が「表面外 / 膜A(厚さ$L_A$) / 膜B(厚さ$\infty$)」という構造の時、膜Bに含まれる元素について検出される信号強度$S$は、 |
+ | 膜Aと膜Bの界面での信号強度$S_{A/ | ||
\begin{eqnarray} | \begin{eqnarray} | ||
- | | + | |
+ | & = & \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \int_0^\infty s(x) dx \\ | ||
+ | | ||
& = & C \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \times [-\lambda_B \exp -\frac{x}{\lambda_B}]_0^\infty \\ | & = & C \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} \times [-\lambda_B \exp -\frac{x}{\lambda_B}]_0^\infty \\ | ||
& = & C \lambda_B \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} | & = & C \lambda_B \exp -\frac{L_A}{\lambda_A} | ||
\end{eqnarray} | \end{eqnarray} | ||
- | 膜Aに含まれる元素について検出される信号強度は | + | となり、膜Aに含まれる元素について検出される信号強度は |
\begin{eqnarray} | \begin{eqnarray} | ||
行 86: | 行 91: | ||
\end{eqnarray} | \end{eqnarray} | ||
- | 「討論会資料」では、「表面 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / GaAs基板」、「表面 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / Si基板」構造で$L_A$を変えた試料セットを準備し、 | + | となる。 |
+ | |||
+ | 「討論会資料」では、「表面外 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / GaAs基板」、「表面外 / ZrO$_2$(厚さ$L_A$) / Si基板」構造で$L_A$を変えた試料セットを準備し、 | ||
膜A中の元素の吸収端 Zr-K, Zr-L、膜B中の元素の吸収端 Ga-K, As-K, Si-K について$L_A$に対する「信号強度」を測定し、 | 膜A中の元素の吸収端 Zr-K, Zr-L、膜B中の元素の吸収端 Ga-K, As-K, Si-K について$L_A$に対する「信号強度」を測定し、 | ||
その結果に対して上記の式をフィッティングすることで $\lambda_A$ (A = Zr)を求めている。 | その結果に対して上記の式をフィッティングすることで $\lambda_A$ (A = Zr)を求めている。 | ||
行 129: | 行 136: | ||
</ | </ | ||
- | この数字を見ると、「表面敏感」を期待するときには「観察深さの2~4倍」ぐらいは見てしまっていること、 | + | この数字を見ると、「表面敏感」を期待するときには、ここで定義する「観察深さ」の2~4倍ぐらいは見てしまっていること、 |
- | 「バルクを見ること」を期待するときには変質した表面は厚さが「観察深さの1/ | + | 「バルクを見ること」を期待するときには変質した表面は厚さが「観察深さ」の1/ |
- | を知っておく必要があります。 | + | を知っておく必要がある。 |
=== - $\lambda_A \neq \lambda_B$ の場合 === | === - $\lambda_A \neq \lambda_B$ の場合 === | ||
その都度評価をするしかないが、方針としては上記と同様の手続きを踏めばよいので、それほど難しくはない。 | その都度評価をするしかないが、方針としては上記と同様の手続きを踏めばよいので、それほど難しくはない。 | ||
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+ | [[start|田渕のページのルート]]\\ | ||
+ | 当 web ページとその下のページに関するお問い合わせ等ございましたら、[[連絡先|連絡先]]にご連絡をお願いします。 \\ | ||
+ | 今日: {{counter|today}} / 昨日: {{counter|yesterday}} / 総計: {{counter|total}} | ||
+ | ~~NOCACHE~~ | ||
tabuchi/ey-cey.1714126285.txt.gz · 最終更新: 2024/04/26 10:11 by mtab