====== あいちSR 硬X線XAFSビームラインの計測器/計測系 ====== ===== - はじめに ===== あいちSRの硬X線XAFSビームライン BL5S1, BL11S2 で使用されている XAFS 測定プログラム XafsM2 のXAFS測定データのフォーマットについて解説した文章「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の中で、 「積分型の検出器/計測系」、「フォトンカウント型の検出器/計測系」という言葉が 何度も出てきます。 しかし、これらの言葉が何を意味するのか説明なしではわかりにくいと思われたのでここで解説してみます。 また、「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の中では、 「積分型の検出器/計測系」という言葉の使い方が若干混乱している部分があります。 ですが、どの様に正せばいいのかも難しかったのでそのままになってしまっています。 ここで、その混乱した使い方について説明することで、「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」は修正せずにおいても、 「意味は分かるからいいや」と思ってもらえないかということも期待しています。 ===== - 「積分型検出器/計測系」という言葉の混乱 ===== ここで書きたいことの主題ではないので本当なら後回しにしたいのですが、 そうするとこの文章の中で「積分型」と書いた時、何を意味しているのかが不正確になるようで気持ちが悪いので 先に説明してしまうことにしました。 ==== - 「積分型」という言葉の使い方 1 ==== 我々が日常的に何かを測る場合、多くの場合はその値は計測時間に依存しません。 例えば今現在の気温が 25℃ だった時、10秒間温度計を眺めていても温度は 25℃ です。 もちろん、気温は時間の関数で朝昼晩違うはずですが、その変化の時間スケールよりも十分短い時間の範囲で測る限り 0.1秒で測っても、1秒で測っても、10秒で測っても値は変わりません。 まったくもって当たり前のことを書いているだけで恥ずかしくなるぐらいなのですが、 そこをこらえてもう一歩踏み込んで考えると この様に時間に依存しないのは計測している量の単位が時間を含んでいないからです。 長さ L[m]、体重 M[kg]、温度 T[K]あるいは[℃]、電圧 E[V]、電流 I[A] 等はみな単位の次元に時間を含んでいません。 なので、物差し、体重計、温度計、電圧計、電流計は、測定するとその場で値がわかります。 しかし、「電圧時間[V・s]」という量も一つの量なので、これを計測することもあり得えます。 1.5Vの乾電池に対して「電圧時間」を測定する計測器があると 0.1秒では 0.15[V・s]、10秒では 15[V・s] という値が計測されることになります。 こんな言葉遊びの様な、へ理屈の様な事をあえて書くのは、XAFS測定データに記録される量の多くが後者の単位に時間が入った[V・s]型の量だからです。 「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の中で、計測された量そのものとオフセットの関係を述べた部分で 「XafsM2では 積分で計測するタイプの検出器/計測系では、 計測値が時間に比例して大きくなります」 と書いているとき「積分で計測するタイプの検出器/計測系」で測定する量として考えているのは「電圧時間[V・s]」型の量です。 これが「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の中での「積分型」という言葉の1つ目の用法で、 計測される量の単位に[s]が入っているものという意味で使っています。 ==== - 「積分型」という言葉の使い方 2 ==== XAFS測定のことを考えるとき、付随する周辺の計測を別にすると、最も大事なのは「光(X線)の強度の測定」です。 「光の強度」を測ろうとするとき、検出器に到達した光の数(光子/photon の数)を、 1個、2個と数えて、結果として到達した光の数がいくつだったかを数えるタイプの検出器/測定系があります。 これが「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の中で「フォトンカウント型」の検出器/測定系と呼んでいるものです。 これに対して、検出器に光が到達したことによって発生する電流や熱などの総量を測ることで 光の強度を測るタイプの検出器もあります。 「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の中では、この型の検出器/測定系を、 「フォトンカウント型」と対比して「積分型」の検出器/測定系と呼んでいます。 これが、「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の中での「積分型」という言葉のもう一つの使い方です。 この二つ(「フォトンカウント型」と「積分型」)には明らかに違いがあって、それぞれの特徴などについてはこの後の文章で触れますが、 データの記録の際にはどちらも、「「積分型」という言葉の使い方 1」の言葉づかいで言う、「積分型」として記録します。 「[[ 9809format | XAFSデータフォーマット ]]」の文章はこの点で「積分型」という言葉の使い方が混乱しています。 ===== - 積分型とフォトンカウント型の検出器/測定系 ===== あいちSRのXAFS測定ビームラインを考えたとき、積分型の検出器/計測系の典型的なものは透過法での測定に使われる $I_0$、$I_1$ の測定系です。 また、フォトンカウント型の検出器/検出系の典型的なものは SSD/SDD を検出器に使う蛍光X線の測定系です。 以下では、これら二つの計測系を例にとり「積分型」と「フォトンカウント型」の検出器/測定系がどのようなものか紹介します。 ==== - 積分型の検出器/計測系 ==== あいちSRでの透過法の測定では、$I_0$、$I_1$ の「検出器」として、イオンチャンバが用いられています(( 余談ですが、 この文章では、「測定器」や「計測器」という言葉を使うのを意図的に避けています。 電圧を測るテスターや長さを測る定規はそれ一つで対象に関する何かの量を計測し提示してくれるので 確かに「測定器」とか「計測器」と呼ぶのにふさわしいものです。 ところが、XAFS測定にはこの様に一つの量の測定に特化してそれ一台で計測から量の提示までをこなしてくれる装置はあまり使われていません。 多くの場合は、X線を検出して何らかのシグナルを出す検出器と、そのシグナルを扱って量として提示するためのシステムすなわち測定系の 組み合わせで計測を行います。 ))。 イオンチャンバがX線の検出器として動作する原理はここでは述べませんが、 その機能としてイオンチャンバは X線が入射したとき、 その一部を吸収して吸収したX線のエネルギーとフォトン数に比例した電流を発生します。 | 000 |-@2| AAA |-@2| BBB |-@2| CCC |-@2| DDD |-@2| EEE |000{border-color:#ffffff}=X線 |AAA{border-color:#aaf;background-color:#ddf}=イオンチャンバ|BBB{border-color:#aaf}=(プリ)アンプ|CCC{border-color:#aaf}=V/Fコンバータ |DDD{border-color:#aaf}=カウンタ |EEE{border-color:#ffffff}=数値 | 000 | | AAA | | BBB | | CCC | | DDD | | EEE |000{border-color:#ffffff}=入力 |AAA{border-color:#ffffff}=X線=>電流|BBB{border-color:#ffffff}=電流=>電圧|CCC{border-color:#ffffff}=電圧=>パルス(数)|DDD{border-color:#ffffff}=数え上げ|EEE{border-color:#ffffff}=出力 電流は電気信号として扱いづらいのでアンプで電圧に変換します(( BL5S1, 11S2 で使用しているアンプは電流/電圧の変換係数が 10[V]/$1^{-9}$[A]〜10[V]/$1^{-2}$[A] ($1^{10}$〜$1^{3}$[V/A]) の範囲で変えられます。)) ((この位置のアンプ(増幅器)はよくプリ(前置)アンプと呼ばれます。 プリアンプの本来の役割は、信号強度が非常に微弱な時、信号源からアンプまでの距離が長いとノイズの影響が大きくなるので 信号源のすぐ近くに置いてノイズの影響が避けられる程度に信号を増幅しておくことです。 BL5S1や11S2の使い方では、検出器とアンプの間の配線はそれほど短くありませんし、 アンプの後に親アンプもありませんので、これを「プリアンプ」と呼ぶかどうかは微妙な所です))。