====== 数え落とし補正 ======
SSD や SDD 等の検出器を使って蛍光でXAFS測定を行う場合、
自己吸収の効果([[http://titan.nusr.nagoya-u.ac.jp/Tabuchi/BL5S1/doku.php?id=tabuchi:%E8%AC%9B%E6%BC%94%E8%B3%87%E6%96%99&do=edit|XAFS夏の学校参照]])以外に、
「数え落とし」によってスペクトルが歪む可能性があることや、
ある程度まではそれを補正して正しいスペクトルに直せることを知っておく必要がある。
XAFS関係者が記述した数え落とし補正を解説した文章は複数あるが(例えば参考1, 参考2)、それらに出てくる式の関係がわかりにくい。
また、あいちSRで実際に使われている数え落とし補正の方法がどういうものか(デフォルトでは野村先生方式)を明らかにする必要もあるため、
ここに yet another な説明文を書いてみた。
正直、数え落とし補正に関しては物理的な意味は置いておいて、「高計数率では計測値が飽和する」ことを既知として
その飽和曲線を何らかの実験式とパラメータで再現できれば補正可能なので、
以下の文章中でも「物理的な意味」やモデルの詳細に踏み込むつもりはない。
* 参考1 : PF野村先生のPFレポート : リンクが生きていればどちらも同じもののはずです \\
https://lss.fnal.gov/archive/other1/kek-report-98-4.pdf \\
https://lib-extopc.kek.jp/preprints/PDF/1998/9824/9824004.pdf \\
{{ :tabuchi:982400.pdf | 念の為のローカルコピー。典拠は上記のものです。}}
* 参考2 : JASRI宇留賀さんの文献 : \\
https://bl01b1.spring8.or.jp/tech/techinfo/SSD_DeadTime_Manual_010125.pdf \\
{{ :tabuchi:ssd_deadtime_manual_010125.pdf | 念の為のローカルコピー。典拠は上記のものです。 }}
ここでの考え方として式(1-1)が既に多少怪しいが、それはさておいて「微少量の高次のベキになっている項を落とす」と言う類の近似を(なるべく)せずに進めた場合どうなるかの記述を赤字で追加してみることにした。
===== - 基本的な考え方 =====
==== - 一般的なパルスカウント系の数え落とし(デッドタイム) =====
どんな装置かを具体的に考えずに、一般的なパルス計測系があったとする。
その装置では、一つのパルスが入ってきた時に、$\tau$ の時間をかけてそのパルスを処理し
結果を発生する。
$\tau$ の時間内に他のパルスが来てもそれを受けることはできず無視されるものとする
(あるいは、追加のパルスも合算されて一つのパルスとして処理されるものとする。
いずれにしてもパルスの数としては最初の1個分しかカウントされない)。
入力のパルスレートが $N_{\rm in}$ [$\rm pulse/sec$]だとすると、
$T$[sec] の時間計測を行った時の平均パルス数は$N_{\rm in}T$ [pulse] で、
1パルスあたり $\tau$ の時間は次のパルスが来てもカウントできない「デッドタイム/不感時間」になるので、
$T$ の測定時間の中で平均して $N_{\rm in}T \times \tau$ の時間はデッドタイムになる。
装置に流れ込んでくるパルスがこの不感時間に当たってしまう確率は
((実際にはこの式が既に近似。パルスレートが$Nin$))
\[
N_{\rm in} T \tau / T = N_{\rm in} \tau
\]
となる。
これは、流れ込んできたパルスが「カウントされない」確率である。
逆に「カウントされる確率」は $(1-N_{\rm in}\tau)$ であるから、出力のカウント数 $N_{\rm out}$ は
\[
N_{\rm out} = ( 1 - N_{\rm in} \tau ) N_{\rm in} \tag{1-1}
\]
となる。
==== - 一般的な数え落とし補正 =====
いま、全入力パルス $N_{\rm in} [{\rm pulse/sec}]$ のうちの一部 $n_{\rm in}$ が数えたいパルスだとする((自分が着目しているエネルギーウインドウに入ったパルスなど。))。
「カウントされる確率」はやはり $(1-N_{\rm in}\tau)$ で、$n_{\rm in}$ の一部がこの確率でカウントされる。
その結果、出力のカウント数 $n_{\rm out}$ は
\[
n_{\rm out} = ( 1 - N_{\rm in} \tau ) n_{\rm in} \tag{2-1}
\]
となる。
従って、$\tau$ と $N_{\rm in}$ がわかっていれば、
\[
n_{\rm in} = \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau}n_{\rm out} \tag{2-2}
\]
の様に真のパルス数 $n_{\rm in}$ を推測することができる。これが数え落とし補正の基本になる。
| ^ 出力 ^ パルスカウント系 ^ 入力 ^
^ 全信号 | $N_{\rm out}$ | \begin{eqnarray} \Leftarrow\ \ & 1-N_{\rm in}\tau & \ \ \Leftarrow \\ \Rightarrow\ \ & \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} & \ \ \Rightarrow \end{eqnarray} | $N_{\rm in}$ |
^ 着目値 | $n_{\rm out}$ | ::: | $n_{\rm in}$ |
==== - 少し具体的に ====
実際の計測値について、この素朴な数え落とし補正を行う場合
$n_{\rm out}$ 、$N_{\rm in}$ 、$\tau$それぞれに具体的な数字が必要になる。
$n_{\rm out}$ は、計測器が出力として出すパルス数そのもので、
例えば慣例的に $\rm SCA$, $\rm OCR$ などと呼ばれる数字などである
(($\rm OCR$は output count rate の略。一方 $\rm SCA$ は本来装置の(種類の)名前だが、ここで考えている様な数え落とし補正が必要な典型的な計測装置なので、
数え落とし補正が必要になる出力値が $\rm SCA$ と呼ばれてしまうことがままある。))。
$N_{\rm in}$ は装置に流れ込む全パルス数で、例えば $\rm ICR$(input count rate)などと呼ばれる数字がこれに当たる。
$\rm SCA$ と $\rm ICR$ は計測のその場で得られる計測値そのものだが、
$\tau$ は、別途決めておく必要がある(ただし、装置の設定や計測系の条件が変わると変わることがある)。
これらの値を使って、
\[
真のパルスレート = \frac{1}{1-\tau \times {\rm [総入力パルスレート(ICR)]}} {\rm [計測したパルスレート(SCA, OCR)]}
\]
の様に計算するのが一番素朴な数え落とし補正ということになる。
===== - 現実的な数え落とし補正 =====
==== - パルスカウント系の入力がすでに他のプロセスを経た後の計測値である場合 ====
先の節で具体的なイメージを持つために $\rm ICR$ などと言う単語を出したが、
この様に書くと、 $\rm ICR$ は「真の」 $N_{\rm in}$ でないのは明らかなので違和感がある。
真に知りたいのは、自分が興味を持っている物理的事象の発生数(例えば蛍光X線の発生)であるが、
$\rm ICR$ は既に「検出器」や「プリアンプ」という装置/装置関数を経たあとのパルスレートである。
両者が比例係数の違いだけで同じなら問題ないが、フォトンカウントするような測定系では、
程度はともかく、ICR の段階で必ず数え落としが発生している。
以下、記号の使い方を今までと同じにするために、「パルスカウント装置」の入力に今までと同じ $N_{\rm in}$ という記号を使う。
これは、「パルスカウント装置より前」にある諸々の「検出器」や「プリアンプ」や「物理的事象が電気信号に変わるプロセス」などを
通った後の出力でもある。
これに対して、本当に数えたい「物理的事象の発生数(レート)」を「真の(true)」数という意味で $N_{\rm T}$ と書くことにする。
$N_{\rm in}$ は「諸々のもの」を通って数え落としが発生した後の出力なので、
今までの $\tau$ とはまた別の不感時間 $\tau_0$ を通して $N_{\rm T}$ と繋がっていて、
\[
N_{\rm in} = ( 1 - N_{\rm T}\tau_0 ) N_{\rm T} \tag{3-1}
\]
の関係がある。
| ^ パルスカウント系入力 / 前段出力 ^ 前段計測系 ^ 真の入力 ^
^ 全信号 | $N_{\rm in}$ | \begin{eqnarray} \Leftarrow\ \ & 1-N_{\rm T}\tau_0 & \ \ \Leftarrow \\ \Rightarrow\ \ & \frac{1}{1-N_{\rm T}\tau_0} & \ \ \Rightarrow \end{eqnarray} | $N_{\rm T}$ |
^ 着目値 | $n_{\rm in}$ | ::: | $n_{\rm T}$ |
この表を前段の表と統合すると次のようになる。
| ^ 出力 ^ パルスカウント系 ^ 入力 ^ パルスカウント系入力 / 前段出力 ^ 前段計測系 ^ 真の入力 ^
^ 全信号 | $N_{\rm out}$ | \begin{eqnarray} \Leftarrow\ \ & 1-N_{\rm in}\tau & \ \ \Leftarrow \\ \Rightarrow\ \ & \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} & \ \ \Rightarrow \end{eqnarray} | $N_{\rm in}$ | $N_{\rm in}$ | \begin{eqnarray} \Leftarrow \ \ & 1-N_{\rm T}\tau_0 & \ \ \Leftarrow \\ \Rightarrow\ \ & \frac{1}{1-N_{\rm T}\tau_0} & \ \ \Rightarrow \end{eqnarray} | $N_{\rm T}$ |
^ 着目値 | $n_{\rm out}$ | ::: | $n_{\rm in}$ | $n_{\rm in}$ | ::: | $n_{\rm T}$ |
==== - 真のイベント数と、計測値、パルスカウント系の入力値の関係 ====
ここまでで出てきた $(1-N_{\rm T}\tau_0)$ や $(1-N_{\rm in}\tau)$ などの因子は、
真のイベント数、中間状態(パルス計測系に入る前)のパルス数、最終的な計測値という3つの量を結ぶ係数になっている。
すなわち、
「${\rm T} \Rightarrow {\rm in}$」のプロセスでカウントされる確率が $p_{\rm in}^{\rm T} = 1-N_{\rm T}\tau_0$ であり、
「${\rm in} \Rightarrow {\rm out}$」のプロセスでカウントされる確率が $p_{\rm out}^{\rm in} = 1-N_{\rm in}\tau$ である。
| ^ 出力 ^ パルスカウント系 ^ 入力 ^ パルスカウント系入力 / 前段出力 ^ 前段計測系 ^ 真の入力 ^
^ 全信号 | $N_{\rm out}$ | \begin{eqnarray} \Leftarrow\ \ & p^{\rm in}_{\rm out} = 1-N_{\rm in}\tau & \ \ \Leftarrow \\ \Rightarrow\ \ & p^{\rm out}_{\rm in} = \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} & \ \ \Rightarrow \end{eqnarray} | $N_{\rm in}$ | $N_{\rm in}$ | \begin{eqnarray} \Leftarrow \ \ & p^{\rm T}_{\rm in} = 1-N_{\rm T}\tau_0 & \ \ \Leftarrow \\ \Rightarrow\ \ & p^{\rm in}_{\rm T} = \frac{1}{1-N_{\rm T}\tau_0} & \ \ \Rightarrow \end{eqnarray} | $N_{\rm T}$ |
^ 着目値 | $n_{\rm out}$ | ::: | $n_{\rm in}$ | $n_{\rm in}$ | ::: | $n_{\rm T}$ |
従って、全事象の数 $N$ ではなく、特定のエネルギーでの蛍光等、全体の一部分に相当する事象に関する計測値 $n$ は、
これらの因子を使って
\begin{eqnarray}
n_{\rm out} & = & p_{\rm out}^{\rm in} p_{\rm in}^{\rm T} n_{\rm T} \\
& = & ( 1-N_{\rm T}\tau_0 ) ( 1-N_{\rm in}\tau ) n_{\rm T}
\end{eqnarray}
の様に計算できる。
ここで、$N_{\rm in}$ と $N_{\rm T}$ の2つが出てきているが、$N_{\rm in} = p_{\rm in}^{\rm T} N_{\rm T} = ( 1 - N_{\rm T} \tau_0 ) N_{\rm T}$ を使って $N_{\rm in}$ を消去することができて
\begin{eqnarray}
n_{\rm out} & = & ( 1-N_{\rm T}\tau_0 ) ( 1-N_{\rm in}\tau ) n_{\rm T} \\
& = & ( 1-N_{\rm T}\tau_0 ) \{ 1- ( 1 - N_{\rm T} \tau_0 ) N_{\rm T} \tau \} n_{\rm T} \\
& = & ( 1-N_{\rm T}\tau_0 ) \{ 1- N_{\rm T}\tau + N_{\rm T}^2 \tau_0 \tau \} n_{\rm T} \\
& \simeq & ( 1-N_{\rm T}\tau_0 )( 1- N_{\rm T}\tau ) n_{\rm T} \tag{3-2}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
n_{\rm out} & = & ( 1-N_{\rm T}\tau_0 ) \{ 1- N_{\rm T}\tau + N_{\rm T}^2 \tau_0 \tau \} n_{\rm T}
\end{eqnarray}
である。
数え落とし補正の形($n_{\rm out}$から$n_{\rm T}$を求める)で書くなら
\[
n_{\rm T} = \frac{1}{ 1-N_{\rm T}\tau_0 }\frac{1}{ 1- N_{\rm T}\tau + N_{\rm T}^2 \tau_0 \tau } n_{\rm out}
\simeq \frac{1}{ 1-N_{\rm T}\tau_0 }\frac{1}{ 1- N_{\rm T}\tau } n_{\rm out} \tag{3-3}
\]
\[
n_{\rm T} = \frac{1}{ 1-N_{\rm T}\tau_0 }\frac{1}{ 1- N_{\rm T}\tau + N_{\rm T}^2 \tau_0 \tau } n_{\rm out}
\]
ということになる(($N_{\rm T}\tau$、$N_{\rm T}\tau_0$ 等の $N$と$\tau$の類の積は $1$ に比べて十分小さいと仮定している...))。
もちろんのことだが部分カウント $n$ ではなく全カウント $N$ の間にも同じ関係が成り立っている。
\begin{eqnarray}
N_{\rm out} & \simeq & ( 1-N_{\rm T}\tau_0 )( 1- N_{\rm T}\tau ) N_{\rm T} \tag{3-4} \\
N_{\rm T} & \simeq & \frac{1}{ 1-N_{\rm T}\tau_0 }\frac{1}{ 1- N_{\rm T}\tau } N_{\rm out} \tag{3-5}
\end{eqnarray}
===== - $N_{\rm T}$ ではなく $N_{\rm in}$ を使って計算したい =====
前節では簡単な計算で意味が分かりやすい形になるので $N_{\rm in}$ を消して、$N_{\rm T}$ を残したが、
$N_{\rm T}$ は実際には直接得ることができない。
そこで実測できる $N_{\rm in}$ を残して逆に $N_{\rm T}$ を消去することを考える。
すなわち、式(3-1) $N_{\rm in} = (1-N_{\rm T}\tau_0)N_{\rm T}$ を $N_{\rm T}$ に関して解くことになる。
解の公式を使えばすぐに
\begin{eqnarray}
N_{\rm T} & = & \frac{ 1 \pm \sqrt{ 1 - 4 N_{\rm in}\tau_0 } }{ 2 \tau_0 }
\end{eqnarray}
と求まる。この $N_{\rm T}$ を2次まで近似すると、
\begin{eqnarray}
N_{\rm T} & \simeq & ( 1 + N_{\rm in} \tau_0 ) N_{\rm in} \tag{4-1}
\end{eqnarray}
となる。
((平方根を1次まで近似すると
\begin{eqnarray}
N_{\rm T} & = & \frac{ 1 \pm \sqrt{ 1 - 4 N_{\rm in} \tau_0 } }{ 2 \tau_0 } \\
& \simeq & \frac{1\pm(1-2N_{\rm in}\tau_0)}{2\tau_0} \\
& = & \frac{1}{\tau_0} - N_{\rm in}, \ \ N_{\rm in}
\end{eqnarray}
であるが、$N_{\rm T} = \frac{1}{\tau_0} - N_{\rm in}$ は過飽和状態を表しているので捨てる。
残った弱飽和の状態を表す $N_{\rm T} = N_{\rm in}$ という解は明らかに近似の精度が足りない。
そこで、平方根を 2次まで近似すると(複号は弱飽和を表す負の方をとる)
\begin{eqnarray}
N_{\rm T} & = & \frac{ 1 - \sqrt{ 1 - 4 N_{\rm in} \tau_0 } }{ 2 \tau_0 } \\
& \simeq & \frac{1 - \{ 1+\frac{1}{2}(-4 N_{\rm in}\tau_0) + \frac{-1}{8}(-4N_{\rm in}\tau_0)^2 \} }{2\tau_0} \\
& = & \frac{1 - \{ 1 -2 N_{\rm in}\tau_0 - 2 N_{\rm in}^2 \tau_0^2 \} }{2\tau_0} \\
& = & N_{\rm in} + N_{\rm in}^2 \tau_0 \\
& = & ( 1 + N_{\rm in} \tau_0 ) N_{\rm in} \tag{4-1}
\end{eqnarray}
となる。))
ここで出てきた $ (1+N_{\rm in} \tau_0) $ はまた、
$\rm in$ の段階で求まったパルス数を $\rm T$ の段階でのパルス数に直す係数と考えて良い
((今までと違って、後の状態の数から前の状態の数を出す係数。))。
そこで、
\begin{eqnarray}
n_{\rm out} & = & p_{\rm out}^{\rm in} n_{\rm in} = ( 1 - N_{\rm in} \tau) n_{\rm in} \\
n_{\rm in} & = & \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out}
\end{eqnarray}
で求まる $n_{\rm in}$ に $ (1+N_{\rm in} \tau_0) $ をかけることで $n_{\rm T}$ を求めることができる。
すなわち、
\begin{eqnarray}
n_{\rm T} & = & (1+N_{\rm in} \tau_0) n_{\rm in} \\
& = & (1+N_{\rm in} \tau_0) \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \\
& = & \frac{1+N_{\rm in} \tau_0}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \tag{4-2}
\end{eqnarray}
===== - もう一つの式の形 =====
先に出てきた
\begin{eqnarray}
n_{\rm T} & = & \frac{1+N_{\rm in} \tau_0}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out}
\end{eqnarray}
という式は、
\[
\frac{1}{1+x} \simeq 1-x
\]
という関係を使うと少し違う形に書き換えることができる。
すなわち、分子の $(1+N_{\rm in}\tau_0)$ にこの関係を使って $ ( 1+N_{\rm in}\tau_0 ) = 1 / ( 1 - N_{\rm in}\tau_0 ) $ とすると、
\begin{eqnarray}
n_{\rm T} & = & \frac{1+N_{\rm in} \tau_0}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \\
& = & (1+N_{\rm in} \tau_0)\frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \\
& \simeq & \frac{1}{1-N_{\rm in} \tau_0}\frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \\
& = & \frac{1}{1-N_{\rm in}(\tau_0+\tau)+N_{\rm in}^2\tau_0\tau} n_{\rm out} \\
& \simeq & \frac{1}{1-N_{\rm in}(\tau_0+\tau) } n_{\rm out} \tag{5-1} \\
\end{eqnarray}
と書ける。
ここまでくると独立に存在するパラメータは一つだけで、
$\tau' = \tau + \tau_0$ として、
\[
n_{\rm T} \simeq \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau'} n_{\rm out} \tag{5-2}
\]
と書けてしまう。
近似($\simeq$)を二回通ったからこうなったとも言える。
===== - XafsM2 での数え落とし補正 =====
あいちSR の BL5S1, BL6N1, BL11S2 で使っている XAFS 測定プログラム XafsM2 では蛍光測定の際に自動的に補正がかかった計測結果も出力する。この時補正に用いる式は選択することができて、それぞれ
* タイプ 1 (中間型) : \[ n_{\rm T} = \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau_0} \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \]
* タイプ 2 (あるいは野村先生型) : \[ n_{\rm T} = \frac{1+N_{\rm in}\tau_0}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \]
* タイプ 3 (あるいは宇留賀さん型) : \[ n_{\rm T} = \frac{1}{1-N_{\rm in}(\tau_0+\tau)} n_{\rm out} \]
* タイプ 4 (近似なし) : 途中に出てきた \[ N_{\rm T} = \frac{1-\sqrt{1-4N_{\rm in}\tau_0}}{2\tau_0} \]
を使って、\[ n_{\rm T} = \frac{1}{1-N_{\rm T}\tau_0} \frac{1}{1-N_{\rm in}\tau} n_{\rm out} \] とする。2022年10月から採用。
という計算を行っている。
デフォルトではタイプ2が選択されている
((ここで「野村先生型」「宇留賀さん型」などと書いたが、
「野村先生の考え方で導かれた式」とか「宇留賀さんの考え方で導かれた式」という意味ではなく、
単に式の形が形式的に同じということを指摘しているだけ。念のため。))
((もうひとつ念の為に書くと、ここまでで $N_{\rm in}$ と書いてきたものは ICR で、$n_{\rm out}$ は補正前の計測値、$n_{\rm T}$ は補正後の値ということになる。))。\\
=> 実際にデッドタイムが大きい状況で測定して評価した結果から、現在デフォルトではタイプ4が選択されている。
===== - $\tau$、$\tau_0$ を決める =====
$\tau$ や $\tau_0$ を決めるのは、$N_{\rm T}$、$N_{\rm in}$、$N_{\rm out}$ のどれか2つを
測定して描かれる対応関係のグラフに対して、これまで出てきたどれかの式を使ってフィッティングを行ってパラメータである
$\tau$ や $\tau_0$ を決定するという作業を行うことになる。
==== - $I_0$ と $N_{\rm in}$ から $\tau_0$ を求める ====
一般に、$N_{\rm T}$ を直接測ることはできないので $N_{\rm T}$ に比例する量で代用することになる。
例えばイオンチャンバの電流値として $I_0$ を計測した場合、$I_0$ は $N_{\rm T}$ に比例すると仮定できるので((本当はここもは検討の余地ありで、少なくとも$\alpha = \alpha(E)$ : $E$ は入射X線のエネルギー、だが $\alpha$ を直接使わなければ問題になならない))
$N_{\rm T} = \alpha I_0$ と置き換える。
式(3.1) $N_{\rm in} = ( 1 - N_{\rm T}\tau_0 ) N_{\rm T}$ に、$N_{\rm T} = \alpha I_0$ を代入すると、
\begin{eqnarray}
N_{\rm in} & = & ( 1 - N_{\rm T}\tau_0 ) N_{\rm T} \\
& = & \alpha I_0 - (\alpha I_0)^2 \tau_0 \\
& = & \alpha I_0 - \alpha^2 \tau_0 I_0^2
\end{eqnarray}
と書ける。
従って、$I_0$ に対する $N_{\rm in}$(いわゆる ICR) のグラフを二次関数(ただし定数項なし)
\[
N_{\rm in} = C_1 I_0 + C_2 I_0^2
\]
で近似して(フィッティングして)係数 $C_1$、$C_2$ を求めると
\begin{eqnarray}
C_1 & = & \alpha \\
C_2 & = & - \alpha^2 \tau_0 \\
\end{eqnarray}
のはずなので、$\tau_0$ は
\[
\tau_0 = -\frac{C_2}{C_1^2}
\]
として求まる。
==== - $N_{\rm in}$ と $n_{\rm out}$から $\tau$ を求める ====
式(3-1) から $\tau_0$ を求めたのと同様に、式(2-1)
\[
n_{\rm out} = ( 1 - N_{\rm in} \tau ) n_{\rm in}
\]
を使うと $\tau$ を実験的に決めることができる。
$n_{\rm in}$ は検出系が受ける全カウント(パルス)のうちあるエネルギー範囲にあるものなので
$N_{\rm in}$ に比例する。すなわち $n_{\rm in} = \beta N_{\rm in}$ と書ける。
これを式(2-1) に代入すると、
\begin{eqnarray}
n_{\rm out} & = & ( 1 - N_{\rm in} \tau ) \beta N_{\rm in} \\
& = & \beta N_{\rm in} - \beta N_{\rm in}^2 \tau \\
& = & \beta N_{\rm in} - \beta \tau N_{\rm in}^2
\end{eqnarray}
従って、$N_{\rm in}$(いわゆる ICR) に対する $n_{\rm out}$(いわゆる SCA) のグラフを
$N_{\rm in}$ の(定数項がない)二次関数
\[
n_{\rm out} = C_1 N_{\rm in} + C_2 N_{\rm in}^2
\]
で近似して(フィッティングして)係数 $C_1$、$C_2$ を求めると
\begin{eqnarray}
C_1 & = & \beta \\
C_2 & = & - \beta \tau \\
\end{eqnarray}
のはずなので、$\tau$ は
\[
\tau_0 = -\frac{C_2}{C_1}
\]
として求まる。
-----
当 web ページとその下のページに関するお問い合わせ等ございましたら、[[連絡先|連絡先]]にご連絡をお願いします。 \\
[[start|田渕のページのルート]]